OLYMPUS-PEN S

July 13, 2017

 

 

 私は写真をよく撮るのですが、といっても、もっぱらミラーレス(一眼レフより薄くて軽いカメラ)をずっと使ってます(これに関してはまたの機会に)。ただもう長いこと同じレンズで撮り続けているので、なんかこう、わくわく感というか、あのカメラ買いたての、ファインダー越しに見る、きらきらの高揚感がどっかいっちゃった。というわけで初心に戻り、ヤフオクで「OLYMPUS-PEN S」という知る人ぞ知る名機、フィルムカメラをついに落としました。

 

 こいつの性能が面白くて、フィルムって普通36枚撮りなのですよね。だけどペンSはハーフサイズカメラといわれる、36枚撮りのフィルムでその倍の72枚も撮れる。一体どうやっているかというと、原理は簡単で、シャッターを押して焼き付ける1コマの感光面の大きさは一般に36mm×24mmです。ですがハーフサイズではその半分、18mm×24mmで1コマに二回焼き付けているのです。もちろん、その分のデメリットもあって、単純計算で画質が半分になるし、カメラって普通ファインダー覗くと横長ですが、こいつは強制的に縦長になります。この「縦構図縛り」というのをずっとやってみたかった。加えて、このペンSはフルマニュアルという仕様。露出計がないので絞りも、シャッタースピードも、適正な露出がわかりません。つまりは「勘」です。撮っても写ってるのか写ってないのか、このくらいの時間帯で晴天で日陰で...という具合に頭の中で絞りとシャッタースピードを計算して適正露出を決めます。この「カメラの基本性能を熟知していないと撮ることすらできない」という縛りプレイがすばらしい。そして極めつけは、ピントが合っているのかも分からない変態仕様。目視でカメラの受光面から被写体までの距離を、自分の中に眠れるスケール感覚を頼りに「だいたい10mぐらいかな」という感じでピントリングを合わせます。

 

 なぜこんなオールドカメラを買ったかというと(もちろんわくわくしたいからですが)、私たちが持っている光に対するものさし、それはすごく漠然としたものです。Photoshopでいじくった数値なんて、いちいち覚える必要がないでしょう。でも実際は、同じ明るさに見えても輝度や照度、ホワイトバランスなど、光の質量ってまったく違っていて、言葉やパソコンを媒介にしたところで難しいもの。ここで重要なのは、感覚ではなく、身体化するということ。自分が与えたい空間の明るさ、ダイナミックレンジをくるくる回して、ああこのくらいかと調整する。そのプロセス自体が空間を設計する行為につながっています。というかほとんど同じことをしていますね。それに目測で距離をはかるので、スケール感覚も養える。同じような話で、建築家である内藤廣さんは空間の「快適さ」を身体化するために、常に温湿度計と風速計を持ち歩いていたそうです。実際にそこで得た風速感覚で、壁量や開口を操作して「快適さ」に対する解答を、設計で実践しているそうです。

 

 最近、ようやく72枚撮り終わってリバーサルを現像に出しましたが、感動しました。デジカメとは違いますね。1/3くらい真っ黒でしたけど。このカメラを使ってみて、その写りに驚いた。ペンSの設計者、米谷美久(カメラ設計界の巨匠)がいう「ライカのサブカメラ」というコンセプトがよく分かります。フィルムが高くて貴重な時代だった昔と今、ハーフサイズが本来の意味をリバイバルして、同じ目的で撮られているっていうのは面白いですね。

 

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