2020
西深井の左官
Plasterer in Nishifukai
創業百数十年の老舗割烹別館、一階客室の改修。
わさわさとした豊かな緑に囲まれ、土手を隔てた運河へ向かって建つ「本館(旧館)・離れ・別館」の三棟からなる料理屋がある。
プロジェクトに先立ち、「本館・離れ」とその土地が市の文化財として保存されることになり、「別館」をなんとかしなくてはいけない。その企画構想を受け、内装を新しくすることになった。
インテリアとはいえ、この特異な現況を”手掛かり”に何かできないかと考える。
そこで市が活用を決めあぐねている「離れ」、そこにあった(いわゆる)大正ロマンの”建具ら”に生を与え、用途を変え、転用することにした。すなわち、ここで扱う次元を数十年前の”建具ら”に依拠させつつも上書きしていくしかたである。
ひずみや反り、褐色のムラを左官になぞらえ、じっとりじっとりと手間をかけながら執拗に素材へ向き合う。重要なのは「造る」よりもっと前の思考だろう。いかに道具を仕込み、どう材料を仕立てるのか。
構法は何気ない、在来である。特殊なことはしていない。
ここにあるのはひとりひとりの感と技術。その蓄積だと思っている。